誠実
先日、卒業式を終えた4年生が来校した。
その日は、授業のない日で、午前中職員会議をしていた。
その間、彼は、自分たちのホームルーム教室の黒板を掃除していたのだ。
卒業式前日、在校生が先輩への思いを黒板に書くことが恒例になっている。
彼は、その黒板が消されずにそのままになっていることが気になって仕方なかったという。
だから、彼は来たのだ。
黒板を消すためだけに。
事前に、担任からそのことは聞いていた。
在学中から、真面目で、寡黙で、しかしみんなに愛される、そんな存在感を持っていた。
だから、「ああ、彼らしいな」と思っていた。
職員会議も終わり、昼食の時間になった頃、彼は職員室に現れた。
そして、モゾモゾしている。
担任が、助け舟を出した。
なんと、彼は、教職員全員に手紙を書いたという。
それも、授業をした教員だけでなく、副校長から非常勤の事務職員にまで、全員にである。
彼は、決して文章が得意な生徒ではなかった。
それが、一人に便箋2枚ずつ、きちんと封筒に入れてである。
彼は、私たちに大切なことを教えてくれた。
それは、「誠実に生きること」
定年退職する最後の月に、私は、「宝物」をもらった。